御船プロジェクト
熊本県御船町では、プライマリヘルスケアの視点から地域づくりを通じた「誰一人取り残さない」介護予防活動を立案・実践しています。JAGES(近藤尚己教授(京都大学)を中心とした研究チーム)との協働で、高齢住民に対して継続的に行っている調査のデータを積極的に活用しています。データをもとに幅広い部署や団体と町の強みと課題を共有し、課題解決のために連携して効果的・効率的に事業を行うことで、地区間の健康格差の縮小も進んでいます。2016 年の熊本地震および水害では大きな被害を受けており、災害による健康への影響も長期的にモニタリングをしながら、対応に取り組んでいます。
■御船町と JAGES との連携の経緯2013
御船町のJAGESへの参加、地域包括ケア推進会議開始
▍きっかけは学会会場でのお悩み相談から
- 「町では介護予防の取り組みを頑張っているのに、要介護認定率が上昇傾向にあるのはなぜ︖」
- 公衆衛生学会自由集会でのご相談
▍健康とくらしの調査(JAGES)2013の実施︓現状把握
▍地域包括ケア推進会議
- 各課が業務時間内に顔をあわせ議論できる仕組みづくり
- 各課からの事例報告とグループワーク
2014
地域診断データに基づく優先課題および重点対象地域の選定
▍地域包括ケア推進会議:7回開催 
▍閉じこもり高齢者の割合 2014
地域診断データに基づく優先課題および重点対象地域の選定
▍水越地域福祉推進モデル事業 
- 住民ワークショップ︓活性化協議会委員+役員(民生委員、福祉協力員など)
▍介護保険事業計画に、格差対策の数値目標を設定

2015
重点対象地区での具体的な事業の検討・開始(ホタルの学校)
▍水越地区「ホタルの学校」開始
- 多部署・住民組織・民間団体が連携して、廃校を利用した「通いの場」が立ち
上がる - 養成したボランティア「介護予防・生活支援サポーター」が主体的に活躍
- 給食室を活かした「会食」と「配食」
▍第4回 健康寿命のばそう!アワード 受賞

2016
大規模災害の経験 JAGES2016調査実施
▍震災後のJAGESチーム訪問 
- 4月14日前震、4月16日本震(震度6弱)。6月20-21日には豪雨災害も
→家屋被害︓全壊406棟、半壊1900棟(大規模半壊330)、一部損壊2046棟 (2016.10) - 避難所の視察、聞き取り→避難所運営に関する提案(避難所間の定例連絡会議の実施など)
- 避難所閉鎖後の、仮設住宅および集会所の視察、聞き取り

▍震災後のJAGESチーム訪問
- 地区ごとの状況把握を精度高く行うため、全数調査を実施
2017
事業の効果評価、他地区への横展開
▍JAGES2016調査の分析
- 閉じこもり高齢者の割合および地域間格差ともに、目標を上回るペースで大幅に改善

- 一方で、特に復興の進んでいない地域で、健康指標の悪化がみられた
特に抑うつの人・笑いの頻度が低い人が多かった

2018
田代西部地区での具体的な事業の検討・開始
▍田代西部地域での住民ワークショップ 
- 地域課題および資源の確認・共有
- 先に重点対象となっていた水越地区での取り組みや成果紹介
→女性グループ「きらり美笑会」の発足、独自でアンケートなど活動
▍地域包括ケア推進会議- 震災復興期の健康課題などのエビデンスや、まちづくりの取り組みなど継続的に情報提供
2019
田代西部地区での事業拡大、JAGES2019調査実施
▍田代西部地区 
- 生活支援体制整備事業の開始
- 住民主体の通いの場「人生百歳クラブ」の発足
▍JAGES2019調査
- 引き続き全数調査を実施︓閉じこもりはさらに改善。笑いは著変なし

2020
COVID-19パンデミック データに基づき新たな指標や介入地区の選定
▍JAGES2019調査結果の分析
- 地域ごとの健康指標や経年変化をヒートマップ形式にして、視覚的に分析

▍第8期介護保険事業計画の策定
- 新たな指標の設定︓趣味の会、学習・教養サークルの参加機会の促進、認知機能低下者割合の改善
2021
部門間連携の模索・促進 
▍連携の機運が高まり、町のさまざまな取り組みが多部門でなされる
① 重層的支援体制整備事業について(御船町社会福祉協議会)
② 御船町健康ポイント事業の活用について(健康づくり保険課)
③ 御船町地域公共交通計画について(企画財政課)
④ 地域防災力強化の取り組みについて(地域・防災係)
⑤ 図書館を活用した認知症サポーター養成講座の開催(社会教育課)
▍「健康長寿のまちづくりフォーラム」開催(11月)
▍アジア健康長寿イノベーション賞2021 国内最優秀事例への選出
▍河津寅雄賞を受賞
本事業が認められ、県民の健康増進活動に顕著な功績があったものとして表彰を受ける
2022
部門間連携のさらなる推進、JAGES2022調査の実施
▍七滝地区の取り組み
- モデル地区として活動を支援
- 企画会議を経て、復活祭り、nanaヨガ教室、ふれあいの場(nana色クラブ)などの活動開始
▍「地域共生社会の実現に向けたセミナー」
▍JAGES2022調査 
▍第11回 健康寿命のばそう︕アワード 優良賞受賞
(厚生労働省スマート・ライフ・プロジェクトより)
(介護予防・高齢者生活支援分野 厚生労働省 老健局長 優良賞 自治体部門)
■成果一覧
Sato K, Amemiya A, Haseda M, Takagi D, Kanamori M, Kondo K, Kondo N. Post-disaster Changes in Social
Capital and Mental Health: A Natural Experiment from the 2016 Kumamoto Earthquake.
American Journal of Epidemiology. 2020;189(9): 910-921.
論文
▍査読あり
- Sato K, Amemiya A, Haseda M, Takagi D, Kanamori M, Kondo K, Kondo N. Postdisaster Changes in Social Capital and Mental Health: A Natural Experiment From the 2016 Kumamoto Earthquake. American journal of Epidemiology. 2020;189(9):910-921. https://doi.org/10.1093/aje/kwaa041
- Matsuoka Y, Haseda M, Kanamori M, Sato K, Amemiya A, Ojima T, Takagi D,Hanazato M, Kondo N. Does disaster-related relocation impact mental health via changes in group participation among older adults? Causal mediation analysis of a pre-post disaster study of the 2016 Kumamoto earthquake. Under review.
▍査読なし
- 近藤 尚己. 健康格差の評価・測定とその活用︓熊本県御船町での取り組み事例より.保健師ジャーナル 2015;71:470 -473.
書籍
- 西橋 静香, 長谷田 真帆, 近藤尚己. 「多部署連携で数値目標を超過達成」
in 近藤克則編. ポストコロナの通いの場. 2021年11月. 日本看護協会出版会, 東京.2021年7月
- 高木大資. 「事例01 熊本県御船町-組織間連携のための協議体形成」
in 近藤尚己編. 介護予防活動のための地域診断データの活用と組織連携ガイド. 東京: 2017
https ://www .jages.net/library/regional -medical/?action=common_download_main&upload_id= 3058
学会発表
- 松岡 洋子, 長谷田 真帆, 金森 万里子, 佐藤 豪竜, 雨宮 愛理, 尾島 俊之, 高木 大資, 花里 真道,近藤 尚己. 「熊本地震後の転居がグループ参加の変化を通じて高齢者の精神的健康に与える影響︓住宅形態別の比較」. 第32回日本疫学会学術総会. 2022年1月
- 長谷田 真帆, 近藤 尚己, 雨宮 愛理, 高木 大資, 近藤 克則.
「高齢者の熊本地震後の居住環境変化と歩行時間減少の関連︓JAGESコホート研究」.第9回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 三重, 2018年6月17日
(プレゼンテーションアワード受賞)
受賞
- 2021年11月 河津寅雄賞
一般財団法人 熊本県健康管理協会
- 2021年7月アジア健康長寿イノベーション賞2021 国内最優秀事例
日本国際交流センター、 東アジア・アセアン経済研究センター
「データの高度活用によるプライマリヘルスケア型の健康長寿戦略」
https ://www .jcie.or.jp/japan/2021/07/30/post-13745/
- 2015年11月 厚生労働省老健局 「第4回健康寿命をのばそう︕アワード」
≪介護予防・高齢者生活支援分野≫ 厚生労働省老健局長優良賞 自治体部門
「住民主体の介護予防活動(循環型の介護予防システム)」
■参考資料