健康格差対策事例集 WHO(世界保健機関)は、2010年にアデレードで開催された「全ての政策において健康を考慮することに関する国際会議」において、健康格差をもたらす健康の社会的決定要因(social determinants of health, SDH)への対策として、全ての政策における健康(Health in All Policies, HiAP)へのアプローチが必要であると声明(アデレード声明)を発表しています。その参考として健康格差対策の事例をご紹介します。
幼児教育への投資 JAGESの研究:子ども期の社会経済環境の高齢期への影響【論文】 【プレスリリース 】
湯浅誠先生(社会活動家・法政大学教授)2016年7月~12月までの投稿記事「1ミリでも進める子どもの貧困対策」Yahoo!ニュース個人での連載から
背景要因として、1990年代から2010年まで労働党政権下で保健省が健康の格差縮小のために地域、特に平均余命の低い地域をターゲットにして、その地域のNHS(国民保健サービス)をサポートし、糖尿病や高コレステロール血症に対する治療を推進してきたことが挙げられます。また、平均余命に関われるとされるマクロレベルの要因として、例えば高齢者層の貧困の改善、失業率の抑制、住宅特に公的住宅の状況の改善も同時に見られ、これらが平均余命格差縮小の要因ではないかとされています。
2008年以降の経済危機に伴う景気の悪化や、それに対する政策が富めるものと貧しい者の平均余命の差にどのような影響を与えたのか、今後見ていく必要があるとしています。
2012年冬の札幌姉妹死亡事件(姉が病死、障害を持つ妹が電気差し止めにより凍死)や、さいたま市での一家3人死亡事件(餓死・凍死を含むとされる)がありました。公共事業であるライフラインが差し止められたことにより生命危機がもたらされた事例です。公共事業が負うべき責任があると、米国ウィスコンシン州では料金滞納者に対するライフライン供給差し止めを規制する法律が1974年から制定されています。 東京大学大学院医学系研究科保健社会行動学分野のウェブサイト
【保健師ジャーナル記事】
日本中の各自治体で行われている事例を、関係者の声から拾い上げた事例集が保健師ジャーナルで特集されています。地域住民や関係機関とどのように関係性を構築し、疾病予防や介護予防の結果を導いたのか、現場レベルでの様々なコツや新しいアイディアに満ちています。コメンテーターとして、2013年はJAGESコアメンバーの浜松医科大学公衆衛生学 尾島俊之 教授、2014年と2015年はJAGES代表の千葉大学 近藤克則 教授が各事例に対して考察を加えています。 【2015年】
連載 [事例集]新しい健康日本21へのヒント・23 森山雄三,近藤克則:介護予防による地域づくりに地域診断システムを活用—島根県における市町村支援の取り組み.保健師ジャーナル 71(04): 334-339. 文献概要 2006(平成18)年度の介護保険制度の改正により,介護予防等を目的とした「地域支援事業」が創設され,市町村は介護予防事業や,地域包括支援センター運営などに取り組むことになった。島根県としては,一定のテーマ設定により市町村担当者向け研修会を継続的に実施するなど,市町村の介護予防の取り組みを支援してきた。2012(平成24)年度の研修会では,介護予防事業の開始から6年が経過し,事業全体の効果を評価してPDCAに活かしたいという市町村担当者の意向を受け,東北大学大学院の辻一郎教授から事業評価のあり方について講演していただいた。この考え方は同年に示された「第2次健康日本21」を踏まえた,県や市町村における健康増進の取り組みにおいても,継続的な施策評価や地域診断を行うことが,今後の施策展開には有効であるということと同じ視点である。さらに,市町村全体としての評価に取り組む中で,より小さな単位で地域診断を行い,地域課題に即した介護予防事業を実施することが効果的ではないかということになった。そこで,2013(平成25)年度は,日本福祉大学(当時,現・千葉大学予防医学センター)の近藤克則教授から,地域診断の結果を地域で共有し,住民自らが介護予防に取り組む,地域づくりとしての介護予防について講演していただいた。その際,具体的な診断方法として紹介されたのが,JAGES(日本老年学的評価研究)チームの「地域診断システム」であり,県内のほとんどの市町村がこの調査研究に参加した。今回は,これまでの介護予防の評価に関する研修の取り組みから,この「地域診断システム」の活用までの動きを紹介する。 特集 健康日本21(第2次)の初期評価 尾島俊之:健康日本21(第2次)の推進による健康寿命の延伸.保健師ジャーナル 71(06): 458-461. 文献概要 健康日本21の目標として,「健康寿命の延伸」「健康格差の縮小」がある。健康寿命の意義を確認し,その延伸のための戦略について述べるとともに,健康日本21の今後の展開についても提言していただく。 近藤克則:健康格差対策のための7原則.保健師ジャーナル 71(06): 462-469. 文献概要 健康日本21の取り組みの柱の1つとして「健康格差の縮小」が定着してきた。本稿では,「健康格差の縮小」に取り組む必要性を確認し,実現するための視点としての7つの原則を紹介していただく。 近藤尚己:健康格差の評価・測定とその活用—熊本県御船町での取り組み事例より.保健師ジャーナル 71(06): 470-474. 文献概要 健康日本21(第2次)を事業化するにあたって,健康格差の可視化は不可欠のポイントである。熊本県御船町において,健康格差の測定結果を「見える化」した取り組みを例に解説する。 稲葉陽二:ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)で地域の特性を探る.保健師ジャーナル 71(06): 475-479. 文献概要 コミュニティにおけるソーシャル・キャピタル(社会関係資本)について,「橋渡し型」と「結束型」および「社会関係資本の樹」という概念や,地域診断に活用する意義を述べていただく。 【2014年】連載 [事例集]新しい健康日本21へのヒント・20 金桝太郎, 三澤洋子,添田静香,中野香央子,岸下つかさ,山本龍生,近藤克則:市民「健康づくりサポーター」との協働で進めるお口の健康づくり—神奈川県藤沢市における取り組み.保健師ジャーナル 70(12): 1092-1097. 文献概要 「健康日本21(第二次)」においては,健康づくりに取り組む市民を増やす取り組みの重要性が謳われています。しかし,歯科保健領域でのボランティア養成についての報告は限られています。そこで,藤沢市における「お口の健康サポーター」について取り組みを紹介します。 連載 [事例集]新しい健康日本21へのヒント・18 西川達夫,篠田宏明,近藤克則:地域で生きいき暮らすための高齢者の健康保持活動の推進—「たすけあい名古屋」の活動.保健師ジャーナル 70(10): 896-903. 文献概要 たすけあい名古屋」とは?認定NPO法人「たすけあい名古屋」は,1997(平成9)年に地域の有志46名が集まり,いつまでも安心して暮らすことのできる地域社会を作るために,地域の住人がお互いに助け合い,支え合うことをめざして設立されました。「暮したすけあい活動」からスタートし,福祉制度の充実に合わせて福祉有償運送,介護保険事業,障害者支援事業,福祉会館指定管理受託と活動領域を広げ,名古屋市でも有数の福祉系NPO法人となりました。なお,「暮したすけあい活動」は当法人の主要な事業として,さまざまな生活支援サービスを実施しています。2013(平成25)年7月に,介護系NPO法人として名古屋市で第1号となる認定NPO法人の資格を取得しました。事業のみでなく,地域の課題の解決に向け,NPO仲間とのネットワーク作り,地域の組織・団体との連携を通して,UR(旧住宅公団)鳴子団地の再開発への提言,名古屋市立大学との連携・提案等の活動を行っています。 連載 [事例集]新しい健康日本21へのヒント・17 山谷麻由美,荒木典子,近藤克則:地域診断を起点とした地域住民や関係機関との協働のまちづくり―介護予防Webアトラスを活用した松浦市の試み.保健師ジャーナル 70(09): 812-816. 文献概要 取り組みの経緯 2015(平成27)年度に予定されている介護保険制度改正の取り組みの1つに,2025(平成37)年を見据えた地域包括ケアシステムの構築があげられている。高齢化が進む松浦市においては,介護予防や生きがい対策,孤独死の予防が大変重要な課題となっている。松浦市地域包括支援センターの保健師は,住民が住み慣れた地域で自立した生活を継続できるよう,第6期介護保険事業計画からの介護予防・日常生活支援総合事業の取り組みを行う準備を進めてきた。加えて,これまで蓄積してきたデータや経験値をエビデンスとして地域保健活動に活用するため,2013(平成25)年度は地域診断により課題を抽出し,事業を見直すことをめざした取り組みを行うことを計画・実施した。 連載 [事例集]新しい健康日本21へのヒント・16 本塚真弓,近藤克則:官民協働「医療と介護の連携のカタチ」DVD制作プロジェクト―豊橋市における社会環境の質に着目した創発.保健師ジャーナル 70(08): 710-717. 文献概要 はじめに 豊橋市では,医療と介護の情報連携ツール「私のリハビリ手帳」の利用促進のための啓発用DVDを官民協働,手づくりで制作した。医療・介護関係専門職と行政とが一丸となり,DVDという1つの作品を一緒に作ったことで,医療と介護が連携することの重要性とその真意を互いに知ることができた。医療・介護連携の推進による多職種連携を起点とした,社会全体が相互に支え合い市民の健康を守る環境整備の一例と思われる。 本稿では,「社会環境の質」という考え方に着目した健康日本21(第2次)の国民の健康の増進の推進に関する基本的方向の1つである「健康を支え,守るための社会環境の整備」にあたる官民協働の実践を報告する。 連載 [事例集]新しい健康日本21へのヒント・14 篠田邦彦,木場静子,石川玲子,荒井利江子,小林敬子,菖蒲川由郷,近藤克則:介護予防運動教室とウオーキング教室を契機としたソーシャル・キャピタル形成―市民の行動変容が行政を動かし,まちづくりにつながる.保健師ジャーナル 70(06): 514-521. 文献概要 新潟市の概要 新潟市は2007(平成19)年4月1日に近隣市町村との合併により人口約81万を擁する本州日本海側初の政令指定都市となりました。しかし,近年は他の都市と同様に高齢化が進み,2013(平成25)年8月1日現在の高齢化率は25.0%となりました。新潟市の8つの区(図1)ごとに見てみると,高齢者数が最も多いのは旧市内の中央区の4万2000人,ついで西区の3万9000人です。しかし,人口に占める65歳以上の人口(高齢化率)が高いのは西蒲区と秋葉区の約27%です(表1)。このような人口動態の兆候は早くから予測されていたことから,市内各区ではさまざまな対策をとり始めました。本稿では,その中から西区と西蒲区を例に,行政主導で行われた健康づくり運動が市民主導に移り,市民と行政との連携発展していった過程を紹介します。
【保健師ジャーナル記事 】 介護予防Webアトラスを活用した松浦市の試み 地域にあるニーズを地域診断で把握し、地域にある資源(サロンや移動販売者)と結びつけたサロンは、ボランティア移動販売者は業者という点も、行政だけでない地域資源を活用した点が教訓的です。 以下引用:月に2回(第2・4水曜日)、普段あまり活用されていない老人憩いの家(高齢者集会施設)を利用して高齢者が気軽に立ち寄れる場所「お寄りまっせ」を立ち上げた。そこでは、普段孤食である高齢者が皆と一緒に食事を楽しめるように介護予防サポーター手作りの昼食を提供するようにした。また、この地区には商店がないため、「お寄りまっせ」に来られた際に食料品・日用品の買い物ができるように、移動販売車に来てもらうことにした。車いすの高齢者や交通の便のない高齢者には、地域の高齢者施設による車いすの貸し出し(寄贈もあり)や送迎の協力も得られ、常時10名前後の参加者が集い、介護予防サポーターとともに和やかで楽しいひと時を過ごしている。移動販売車の利用者も増加し続けており、会計のアルバイトを雇うほどの盛況ぶりである。 【引用元】 山谷 麻由美, 荒木 典子, コメント:近藤 克則. 「事例集:新しい健康日本21へのヒント 地域診断を起点とした地域住民や関係機関との協働のまちづくり 介護予防Webアトラスを活用した松浦市の試み」保健師ジャーナル 2014; 70: 812-6 【論文】山谷麻由美,近藤克則,近藤尚己,荒木典子,藤原晴美:長崎県松浦市における地域診断支援ツールを活用した高齢者サロンの展開 -JAGESプロジェクト-,日本公衆衛生雑誌,63(9):578-585,2016 (査読有) 中村廣隆,小嶋雅代,村田千代栄:住民主体の介護予防に向けた取り組み : 地域課題の共有するワークショップを通じて.東海公衆衛生雑誌 = Tokai journal of public health 4(1):55-59, 2016 岡田栄作, 杉田恵子, 櫻木正彦, 尾島俊之, 近藤克則:福祉の現場から 地域包括ケアシステム構築のための地域診断活用支援プログラム開発の試み, 地域ケアリング:18(1):56-60, 2016 (査読無) 【プレスリリース】
都市政策において、健康・医療・福祉の視点から必要な事業や施策へと大きく舵を切っていくために、「健康・医療・福祉のまちづくりの推進ガイドライン」が策定されました。この中でJAGESの成果が紹介されています。
ロンドンでは2010年に自転車を共同利用するシェアリングシステムが導入され、新たな都市公共交通機関の選択肢として市民の間に浸透しつつあります。同システムの導入による利用者の健康への影響を検討した英・University of Cambridge School of Clinical MedicineのJames Woodcock氏らは「事故による傷害リスクを勘案しても,全般的に健康への好ましい影響が認められました。ただし、若年者ではリスクがベネフィットを上回る可能性もある」と BMJ(2014; 348: g425)に報告しました。
英政府はアルコール飲料の最低価格制度をイングランドとウェールズに導入するとしていましたが、最低価格設定には効果のエビデンスが不足している他、節度のある多数の飲酒者に不公平となる、低所得者層の飲酒者に大きな経済的負担がかかることなどを理由に導入は見送られました。英・University of SheffieldのJohn Holmes氏らは、英国で最低価格が設定された場合の影響を異なるサブグループ間で評価するモデル化研究を実施しました。シェフィールドアルコール政策モデル(SAPM)バージョン2.6を用いた政策評価の結果、同政策導入により最大の行動変化が見られたのは低所得層の有害飲酒者群であったとLancet(2014年2月10日オンライン版)に発表しました。